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汝、その薔薇の名

7.赤燐の盗賊 6


 透き通った身体を持つエサソンは小さくて善良な妖精たちだ。
 彼らは木々の根元の湿った場所に住んでいる。主食はそこに生える菌類だ。陽気な性格で困っている人間を黙って見ていることができないエサソンたちは、人間に好意的な妖精だった。
 彼らもやはりランスから迸る魔力の炎は苦手のようで隠れていた。しかし、こちらを心配そうに見上げている。
 エリーゼは腰を低くして炎の手を逃れると屈みこんだ。
「突然ごめんなさい。貴方達の道を通らせてくださらないかしら」
 エサソンたちは顔を見合わせると口々に話し始めた。
「この人ボクたちがみえるんだ」
「でもなんで?」
「そんなことより、道を通りたいって」
「ムリだよ」
「うん。ムリだ」
 頷きあうとエリーゼに顔を振った。
「どうしたら通らせてくれるかしら?」
「人間にはムリだよ」
「そうだ。迷ってしまうよ」
 エリーゼは顔をあげて一本の大木に視点を合わせた。どっしりと佇む樹木を指さして「あそこが入口ね?」と聞いたエリーゼにエクソンたちがわっと騒ぐ。
「どうしてわかったんだ?!」
「視えるから」
 正直に答えた。エリーゼの深い紅に輝く瞳にエクソンたちはどよめいた。そして声を低くしてひそひそと話し合いを始めた。口を挟まず待っていると、小人たちのなかから一人のエクソンが進み出て来た。
「通してあげてもいい。でもその先は保証できないよ」
「ありがとう。とても助かるわ」
「いいんだ。困っている時はおたがいさまさ。でも本当に気をつけて」
 その注意に真剣に頷くとエリーゼは取り出したネックレッスから縞状模様が美しい乳白色の瑪瑙を傷がつかないように短刀の先で台座から外した。楕円形に加工されてはいるが、その縞目は美しいままだ。
 取り外した瑪瑙を手渡すとエクソンは驚いたのか長めの耳をぴょこんと動かした。
「貴方達の道を使わせてもらう代価と助けてもらったお礼です。マブ女王に献上いたします」
 真面目くさってそう伝えるとエリーゼはタイミングを見計らってランスの元へと駆け寄った。
 エリーゼは横からランスに思いっきり体当たりを仕掛けた。不意打ちだったのだろう。びっくりして体勢を崩したランスの集中力が切れる。
 空気中でパッと火花が爆ぜると火力が弱まり、次第に炎が揺らめきながら消えていくのがわかった。
 エリーゼは兵士たちの動揺が収まらないうちにランスの腕を引っ張って樹木を目がけて突進する。ランスが慌てたような声を発したが、エリーゼは無視した。
 勢いをつけたまま、エリーゼはジャンプするように樹木の太い幹へと突っ込んでいった。
 それは一瞬だった。樹木の中へと吸い込まれるようにして消えていく。妖精の道に入ることに成功したのだ。
 身体がふわふわと宙に浮くような浮遊感とその後にきたがくりと落下する感覚が収まると、エリーゼはランスの腕をしっかり握って走り出した。
「おいっ、いったいこりゃぁ…」
「よそ見をしてはだめです」
 エリーゼは前方に視線を固定したまま鋭く注意した。
「手をつないでいる感覚に意識を向けて、前だけを見ていてください。それ以外の事に気をとられては駄目。つけいられます」
「つけいられる…?」
「妖精です」
 景色は森の中と変わらないがぼんやりとしており、どことなく色彩が薄い。エリーゼとランスが走り去るとできる光の波紋が広がっては消える際に小さな鈴の音を響かせるだけであとは無音だった。
 ひんやりとした空気が漂う。誰かに見られている。それも複数の者たちに。ランスはひしひしと視線を四方から浴びせられていることに気がついた。
「通り抜けるだけ。あと少しの我慢です」
 ランスの警戒心を悟りエリーゼが諭した。
「私たちは今妖精の世界に片足を突っ込んでいるんです。この世界で私たちは異分子でしかない。彼等が注目しているのはその所為です」
「彼らっていうのは…その、妖精なのか?」
「はい」
 ランスは複雑そうに顔をゆがませたが前を向いているエリーゼは気がつかなかった。
「使用しているのはエサソンの道ですが、他の妖精が干渉できないわけではないんです。だから気は抜けません」
「…なるほどね。そういうことならさっさとお暇したほうがいいな」
「そのとおりです」
 もしこれがエリーゼ一人だけだったならば、こんなにも緊張しなかっただろう。エリーゼにとって妖精の道は使い慣れた手段だ。とはいえ、始めて通る道であることは間違いないし、ランスと一緒なのだ。気をつけるのにこしたことはない。
 エリーゼは前方に微かに光を洩らす裂け目を見つけた。出口だ。
 二人は景色に紛れている裂け目を目がけて一目散に飛び込んだ。

 エリーゼが消えた。
 シャドウはゆらりと樹木に近寄りその周囲を調べた。妖精の道だということはわかっている。だがシャドウには通ることはできない。何故ならシャドウは妖精ではないからだ。
 エリーゼがこの道を見つけて通り抜けることができるとは思わなかった。彼女はただの人間ではないらしい。
 エリーゼは何の躊躇もなく樹木にぶつかっていった。普通はできない。そこにあるのは頑丈な大木だ。たとえそこに道があるとわかっていても普通の人間ならば躊躇いが生まれるはずだ。
 その瞬間を目撃していたシャドウは強力な炎の魔力の衝撃が抜けきらず、身動きが取れなかった。ただ、エリーゼがシャドウの方を一瞬だけ振り向いたことには気が付いていた。
 それは何を意味するのか。おそらく心配するなという合図だったのだろうが、シャドウはフリードリッヒ・ファルツからエリーゼを守るように命令されていた。それ故になんとかして後を追う方法を考えていた。しかし、エリーゼの気配は完全に途絶えてしまった。
 この辺り一帯に張られていた術師の結界はあの男が放った火炎によって消し去られている。その代り充満しているのは炎の色濃い気配だ。その所為で森が騒がしい。隠れている妖精たちが騒ぎたてているからだ。
 シャドウはあの男の炎の力は好きではない。あの男が宿している火はただの魔力ではない。業火だ。人間にとっても危険だがシャドウにとっても危険だ。勿論、妖精にも。
 なにより炎の影響によってエリーゼの気配が完全に上書きされてしまっている。エリーゼの影にフリードリッヒが細工しておいたシャドウの端末も断ち切られてしまっていた。忌々しい。
 これ以上ここに居ても無駄だとシャドウは判断すると炎から隠れるようにマントの後ろでこそこそしていたピクシーをつまみ上げる。
「なっ、なにすんだよっ」
〈―…オマエナラバコノ道ヲ通レル、彼女ノ後ヲ追跡シロ…―〉
「なんでおれがそんなことしなくちゃいけないんだよ」
〈―…付イテキタノハオマエノ意思ダ。役ニ立テ…―〉
 役立たず入らない。ここで切り刻んで捨てるだけだ。
 ピクシーは横暴だ脅迫だと騒ぎ立てたが、熱のない冷やかな声に逆らうのは得策ではないと身の危険を感じたらしい。
「いっとくがな、妖精の道は何本もあるんだ。後を追っても、どの道を通ってどこの出口から出たのか辿れる確率は低いぞ…だいだい、この道はおいらのじゃないんだから」
 文句を言いながらもピクシーはぴょんと樹木の中へと飛び込んで行った。
 まずはこれでいい。あの炎の男と対立していた人間どもが騒いでいる。人間の事情に首を突っ込む気はないが煩わしい。ここで抹殺しておいた方が後々楽になるだろうが、残念なことに現在のシャドウの優先事項はエリーゼの保護だ。それに導師と呼ばれている男はこちらを見逃すつもりのようだ。ならば下手に手を出すこともないだろう。シャドウは動き回る人間たちをその場に残して闇へと身を溶かすと移動した。
 館では明かりが滔々と灯され、人が動き回っていた。エリーゼの不在がばれたのだ。
 シャドウは影の中を移動して目的の人物を探し出すと姿形を構築した。室内でマギステル卿と向き合っていたミハエルが突然のことにぎょっとして声を上げた。
「シャドウ?!」
「どうしてここに…?」
 眉を上げたマギステル卿だったが、すぐにピンときたのだろう。納得したような顔つきになる。
「伯爵か? 追ってきた…いや、伯爵のことだから事前にエリーゼの影にでも細工しておいたのかな」
 冷静に呟くマギステル卿をミハエルが押しのけた。
「エリーゼは何処に?」
〈―…彼女ハ森ニ…―〉
「森? マーレの森か?」
 シャドウはこれまでの経緯を大まかにだがミハエルとマギステル卿に説明した。話を聞き終えるとマギステル卿の顔は顰められ、ミハエルは些か憔悴したように椅子に腰をおろした。
「つまりなにか、エリーゼは現在見知らぬ男と夜の森の中に居て、武装した男たちに追いかけまわされているのか」
〈―…否、追イカケマワサレテイルノハ男ノミ、彼女ハ上手ク逃走ヲ図リ成功シタ…―〉
「追われている男と一緒にいるなら同じことだ。いったい何がどうなっているんだ?」
「その謎の男が気になるね…それにしてもエリーゼには驚かされる。随分と愉快な特技をもっているじゃないか」
「魔導師の養い親に育てられたのだから少しぐらい変わっていても不思議じゃない。それにエリーゼの眼は私と同じく異質な色なんだ…、何かあるだろうとは思っていた……」
「通常ならば目には見えないものを視る眼力ね…伯爵ならば何か知っているかもしれないが、今はそれどころではないね」
 ふむ…と頬杖をついていたマギステル卿はこめかみを指でさすりながら片眼を閉じた。
「今問題なのは、エリーゼがどうやら退引きならない事態に巻き込まれているということだ」
 理由は不明だが追われているその謎の男とやらの事情に完全に踏み込んでしまっている以上、身の危険は避けられない。シャドウの説明によるとあちらは殺す気でエリーゼに迫ったというではないか。まだ正式にファルツ伯爵の娘ではないとはいえ、エリーゼに何かあっては困る。
 とんだ騒動を連れて来たエリーゼは将来ファルツ伯爵よりも大物になるのではないかと苦笑するとマギステル卿は立ち上がった。ミハエルと目が合った。その表情からどうやら考えていることは同じらしい。ミハエルも優雅に立ち上がる。
「レシンに掻い摘んだ事情を説明してこよう」
「わかった。こちらもいくらかの手兵を動かせるように指示してくる。用意を済ませて一刻後に厩で落ち合おう」
「ああ」
 マギステル卿が退室するとミハエルはシャドウに向き直る。
「フリードリッヒに連絡を頼む。状況の説明をして指示を仰いでくれ」
 わかったというように一つ頷くとシャドウは闇に紛れるようにかき消えた。

 これまで起こった出来事の詳細を話し終えたシャドウは膝をつき頭を垂れたままの状態でフリードリッヒの言葉を待った。
「なるほど」
 庭の隅にこじんまりと設けられた四方が吹き放しになっている休憩用の小さな建物の中のベンチに腰かけたフリードリッヒは眠たそうな猫のように瞼を半分以上下げたまま頷いた。
「つまり観点は二つ。一つはエリーゼは妖精を拾い――尚且つ本来ならば目に見えないものが見えることが判明したが、肝心のエリーゼの行方が分からない。二つ目、分かっていることはエリーゼは炎の魔力を持つ謎の男と一緒にいることで――その所為で武器をもった集団に追われている…、ということだが…ふむ」
 フリードリッヒは杖を手の中でもてあそぶ。
「エリーゼが人ならぬものが見えようが何を拾ってこようが大した問題ではないが、行方が分からぬというのはいただけんな。しかも危険が迫っているならばなおさら―――後は追えなかったのだな?」
〈―…ハイ…―〉
 どれだけ遠く離れていようが端末さえ残っていればシャドウは後を追えたはずだ。完璧に断ち切られていたということはそれだけ男が操る炎の魔力が強力だったということか。
「だが、解せぬ。お前の魔力を締め出すほどの魔力量となると…扱える者がそうそういるとは思えん。その男の正体が気にかかるな」
〈―………―〉
「まだ反動が残っているのかね?」
〈―…違和感ガ少々。炎ニヨッテ魔流素子ヲ乱サレタタメ一部ノ《ストレージ》ニ異常ガミラレマス…―〉
 シャドウのいうストレージというのが記憶媒体――魔力の情報記憶を行うための中核機能の一つであることを知っているので、フリードリッヒは僅かに眉をひそめた。
「回復にはどれくらいかかる」
〈―…復旧ニ算出サレル時間ハ十分ト五十…回収率100/100ゲージ確認シマシタ《バックアップ》ニ入リマス…―〉
「よろしい」
 思ったほど状態は悪いわけではないようだ。静止したままのシャドウを見据えるとフリードリッヒは瞼を押し上げた。
「では状態が回復したら男が放出したという炎の魔力を追跡するのだ。可能かね?」
〈―…主要ナ構成元素ハ記憶シテイマスノデ不可能デハアリマセン…シカシ、彼女デハナク…男ヲオエト…―〉
「二人は共にいるのだろう? ならば同じことだ。男を追えばおのずとエリーゼを見つけられるだろう。エリーゼにつけておいた端末は消滅した。エリーゼに危険が迫ってもすぐにお前が駆けつけることはできない。最悪な場合を想定して見つけるのは早ければ早い方がいい」
〈―…御意…―〉
 季節は春に入ったとはいえ夜の風はまだひんやりとしている。
 ふと、空気が僅かに変わった。氷に触れたかのようなひやりとした冷たさ。背筋が震えるような空気が庭を取り巻いた。
 顔を上げフリードリッヒは目を凝らす。淡く発光する泡の粒子が夜の闇から溶け出してきたかのようにみるみるうちに姿形を成していく。泡が弾けた。不思議な現象にもフリードリッヒは驚くことなく無表情のまま唐突に出現した美女を見据えた。
「やれやれ、今日は随分と出入りが激しいことだ」
〈フリードリッヒ様、ごきげんよう〉
 豊満な身体にぴったりと張り付くような漆黒のドレスを纏った豪奢な巻き毛の美女だった。
〈あらん? シャドウもいたの〉
〈―………―〉
〈相変わらず無口なのね。これだけ付き合いが長いって言うのに困った子。時間があればカナリアだって社交辞令の一つも覚えるっていうのに〉
 無言を貫くシャドウを構うのに飽きたのか美女はフリードリッヒに近づくと、するりとその首に腕をまわした。
〈お久しぶりですわフリードリッヒ様。会えなくて寂しゅうございました〉
「そうかね。我輩は君がいなくて快適に過ごしていた」
〈相変わらずつれないお方。でもそこが魅力的ですわ〉
 うふふと妖しく笑みを漏らすと白魚のような手でフリードリッヒの頬をするりと撫でる。人間ではありえない死人のような冷たさが触られた個所に残るもフリードリッヒは眉一つ動かさなかった。
〈私の魔力に引きずられない殿方は貴重ですのよフリードリッヒ様。貴方様は理想的ですわ。勿論魔力もね…どうです、そろそろ私の愛隷になる気はおきません?〉
「残念だが遊び相手ならば他をあたることだ。何度も言うが我輩、君には魅力を感じないのでね」
〈本当に残念…でも気長に待ちますわ、私は寛大ですの〉
 この二人が会うたびに何度も同じやり取りをするのが挨拶代わりになってきているので、シャドウはあえて口を挟まずじっとしていた。むしろ口を挟むと矛先がこちらに向けられて迷惑を被ることを随分昔に学習したので文字通り影のように気配を消すことに専念していた。
 フリードリッヒは誰もがふらふらとついていきそうな妖艶な美女の誘いをあっさり切って捨てると本題に入る。
「それで? 用件は何かね」
〈エルダランから客人が来ていますわ〉
 フリードリッヒは片眉を上げた。シャドウもフードで隠された目を向ける。
〈―…確カナ情報カ?…―〉
〈当たり前でしょ、私を誰だと思っているの〉
 美女は傲慢に顎を上げシャドウを見下しながらふっくらとした唇を歪める。
〈宮廷に身をおく私にとって人間の情報など手のひらで転がすようなものですわ〉
〈―…過剰ナ自信ハ身ヲ滅ボス…―〉
「シャドウの言い分も一理ある。年代を経た代物には強い力が宿るものだ。あの城は古い。案の定いたるところに古代からの結界が張られている。君が覗くことができない場所もあるだろう?」
 無言のまま肩をすくめる美女の様子からフリードリッヒの事が事実だと知れる。
「それに王国付き魔導師が居ることを忘れてはならぬ」
〈私、彼女は好きません〉
 ぷんと顔をそむけるしぐさが外見に反して幼い。
「あちらも好いてはいないだろう。だが今のところ何をするわけでもない。見て見ぬ振りをしているのだ。あまり刺激せぬようにな」
 何か言いたげに上目づかいでフリードリッヒを見た。しかし、結局口を閉じる。シャドウもフリードリッヒをそっと窺うが、その真意を知ることはできなかった。
 二人から漂ってくる微妙な雰囲気を気にも留めず、手の中で杖をくるくる回しながらフリードリッヒは美女を見据えた。
「それで? エルドランからの客人のことを聞こうか」
〈それが面白いことになっているようで観察のしがいがありますの〉
「ほう?」
 はずむような声音にフリードリッヒの注意が向く。
「君の興味を引くとはどういったことか我輩も気になる」
〈ふふ…、つい先ほどの事ですわ。夜の闇にまぎれてエルダランからの使者が王宮に入りました〉
「一人か?」
〈いいえ。三人。うち二人は従者…腕はそれなりにたつ騎士のようでしたがあえて従騎士エスクワイアを装っているように見えました。一人は正規の使者でしょうね。外交官として何度か王宮で見た顔でしたわ。でもおかしいのは三人とも目立たぬよう細心の注意をはらっていることですの〉
 美女はにんまりと笑った。
〈よほど人目につきたくないようですわ。ぴりぴりした緊張感が漂っておりました。…密書でも携えて来たのかと思ったほどに〉
「外交官…、君のことだ顔を覚えているということは名前も覚えているのだろう? 誰だね」
〈勿論ですわ。特に美しい殿方は忘れろと言われても無理ですもの…うふふ、名はレイモンド・マコルトですわ〉
「サンスルワット伯レイモンド・マコルト…」
 フリードリッヒは怪訝そうにつぶやいた。
「エルドラン王太后の懐刀か、これはまた大物が出てきたな」
〈秘密裏に国王との謁見の場が用意されております。どうされます?〉
 フリードリッヒはシャドウに視線を戻した。
「ノスタルジアでもエルダランが話題に出ていたのだな」
〈―…国境デノ山賊ニ関スル問題デス…―〉
「それがどうつながるか…だが些か情報が足りぬな。…リリン頼めるかね?」
 リリンと呼ばれた美女は瞳をきらりと妖しく輝かせてくすりと笑った。
〈フリードリッヒ様、人にものを頼む時はそれ相応の代価が必要ですわよ?〉
「君は人ではないだろう」
 赤く染色された爪が目立つ人差し指をずいっと前に出しチッチッと舌を鳴らす。
〈話をそらしても無駄でしてよ〉
「よかろう、それを君が望むならば」
 フリードリッヒはリリンの腕をとると手の甲に口づけを落とした。
「我輩の願いをかなえてくれ我が愛しい夢魔よ」
 幽霊のように無表情な顔で明らかに心のこもっていない淡々とした言葉だったが恋は盲目というかなんというか、効果はてきめんだった。
 ぽっと顔を赤らめたリリンは両頬に手を当ててくねくねと腰を動かした。
〈きゃ―――! 愛しいなんてそんな…もっと言ってくださいな〉
 きゃーきゃーと一人で騒いでいるリリンに横やりを入れることもできず、動じることなくいつもどおり亡霊のごとき無表情を保つ自分の主からも視線をそらしシャドウはあらぬ方向に顔を反らした。居た堪れない気分とはこういうことを言うのだろうか。人間の感情をまた一つ学んだ。
 うきうきといった感じでふわりと空中に浮き上がるとリリンはうっとりとフリードリッヒを見下ろす。
〈貴方のためならば何でもかなえて差し上げますわ、愛しい方…〉
 美貌の夢魔はうっとりするような微笑を浮かべた。


  

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